「二人の男」
2。この数字に彼は異常とも云える程執着していた。
常に所持しているものは二つづつ。
彼はマンションの二階に住んでいたし、特注のドアノブも二つ。
会社では営業二課に所属にしている。
勝負事でも何時も二番目。
彼は二人兄弟の二番目で、
彼の名は二村昇二と「二」が二つ付いている。
彼はこれまでずっと「二」に従って生きてきた。
だが彼はそれまで気が付かなかったある事に気が付いた。
彼は「独り」なのである。
彼の異常なまでの「二」への執着により、恋人は愚か、
友達もいないのは云うまでも無い。
彼は「二人」になる為、奮闘した。
厳しいと思われた其れは
遂に叶った。
彼等は物理的に二人になったのだった。

「狂った男」
その町は狂っていた。
いや、その国も、世界中が狂っていた。
国々では戦争が頻発し、国内では犯罪が横行していた。
子供達の中ではいじめが起こり、いよいよ世界は終末期を迎えた。
然し、そんな世の中に異を呈する一人の男がいた。
彼は懸命に叫び、世界を変えようとした。
だがそんな彼を民衆は狂った男とし、耳を貸さなかった。
それでも彼は狂った男として叫び続ける。
いつか、本当に狂っているのはどちらかを認めさせる為に。

「鞄の中身」
彼は何時もの様に公園を散歩していた。
だが、職場に何時もの鞄を忘れてきてしまったので、
何時もと違う鞄を持って歩いていた。
然し、何時もと違うのはそれだけではなかった。
何か異様な気配を感じ、振り向くと
其処には何処か神秘的な雰囲気を持つ物体が落ちていた。
いや、置いてあったと云うのが正しいのかも知れない。
彼は恐る恐るその物体を手にしてみると、
見た目とは裏腹にずっしりとした重さが有った。
その日は休日だったので後でじっくり観察することにして
一旦、手にしていた鞄にその物体をしまい、彼は帰ろうとした。
だが、彼は公園から出ることが出来なかった。
彼は先刻鞄に入れた物体が原因だと思い、
その物体を茂みの中にほうり捨てた。
彼の予想通り物体を捨てると、公園から出ることが出来た。
だが少し気分が悪くなった。
翌日は不気味だったので彼は別の公園で散歩した。
だが、長年散歩を続けていた公園とは別の公園で散歩すると、
何時もの調子が狂い、気分が悪くなったので、
その翌日は元の公園で散歩することに決めた。
恐る恐る公園に足を踏み入れてみると、
何時もの様に公園は静まり返っていた。
ふと安心して彼はため息を吐いた。
そして何時もの様に散歩をし、帰ろうとすると、
例の物体を見つけたので、彼は恐る恐る手に取った。
やはりずっしりとした重みが有った。
よく観察してみると、その表面には、不思議と
埃がこびり付いていなくて、不思議な輝きを放っていた。
そして側面（と思われる）の部分に
細かい模様や、見たこともない文字の羅列が彫られていた。
何かの骨董品かと彼は思った。
だが同時に素人には全く何かわからない代物だなと思った。
壺の様でもなく、茶碗の様でもない。
その物体から一旦目を離すと、彼は知り合いに
骨董品を沢山集めている収集家が居るのを思い出し、
見てもらうために持ち帰ろうとした。
公園から出る際、前の様に出られなくなるかと思ったが、
そんなことは無かった。
そして彼は例の物体が何なのかについて
色々と想像を膨らませながら帰路についた。
そしてその日は何事もなく過ぎ去った。
翌日収集家の家に出かける際、
彼は何時もの鞄をまた職場に置いて来てしまったことに気が付いた。
だが、今の彼はそんなことは如何でも良く、
別の鞄を手に取り、家を出ようとした。
その時、部屋から出ることが出来ないことに気が付いた。
彼はハッとした。
ーそう云えばあの時もこのかばんで出かけたっけー
急いで彼は鞄の中を漁り、ある薄くて黒い装置を見つけた。
その装置には見覚えのある文字の羅列が刻まれていた。
思い出した。
半年ほど前、彼は例の公園でこの装置を見つけていた。
その時はただのカードだろうと思って、
交番に届けるつもりでこの鞄に入れておいたのだった。
だがこの鞄は滅多に使わないので忘れてしまっていたのだった。
彼がこれ等の物を拾った公園、
ここは古代文明の罪を犯した者を収容する監獄だった。
そしてこの黒い装置、これは囚人の服に取り付けるもので
それを所持した人間は例の物体がある空間から
出ることが出来なくする為の物なのだった。
だが、そんなこと彼は知る筈もなかった。